137. 可愛相

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可愛相
かあいそう


 一般的には愛すべき、
 重要他者をいとうこと。

 瞬間の滅多刺しが得意なそれは、
 俺のしゃがれ声を封じ込めた。

 いやらしい世間体をのぞかせながら、
 前非ぜんぴ有耶無耶うやむやにしたいらしい。

 どうせ生かし合い殺し合うなら、
 下手な前置きは省略しないか。

 愛すべき霊園の遠く遠くに、
 容認されない嫌悪をまつらん。


 一般的には愛すべき、
 重要他者を厭うこと。

 無為の下方比較が得意なそれは、
 俺の足跡そくせきき下ろした。

 忌々いまいましい嫉妬心を震わせながら、
 軽薄な信用を誇示したいらしい。

 どうせだまし合い利用し合うなら、
 下手なポーズは省略しないか。

 愛すべき霊園の遠く遠くに、
 容認されない怨恨を祀らん。


 こちとら世間を奪われたのだ。

 お前らの世間を奪われたのだ。


 なんて言い分がまかり通る訳ないか。


「新しい病の匂いがします」


 通報があったので駆けつけました。


 まずはあの頃をすくい出そうか。

 演技できた頃を掬い出そうか。


 月にアメリカがあった頃、
 お別れの駅で泣いたこと。

 お別れの機微に慣れた頃、
 明るい未来をかたったこと。

 コンビニスイーツ1個分ほどの、
 虫の知らせにはならない程度の、
 孝行を吝嗇けちる手はないでしょう。


 そんな倫理で誤魔化せる訳ないか。


 平気な人だっているのだろうが、
 頼られた瞬間メンターになる僕は、
 有線由来の「くじけそう」なときに、
 何を宛てがって生きていけばいい。

 他人の鼻歌に揺れられるような、
 くすぐったい人に目移りする僕は、
 有線由来の「あなた」や「君」に、
 誰を宛てがって生きていけばいい。


 づわっと懐かしい畳の匂いがした。


「お嫁さんの顔ば見るまで死ねんばい」
(祖母のけた手を思い出せ)

「いつかピアノを披露するよ」
(しなやかに動けるはずのおのが手をかざせ)


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