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アトピック・エフュージョン
(『乱心と冷静』2/5 )
いちいちこっちを向くんじゃねえ。
ちらちらこっちを見てんじゃねえ。
お前らの眼球を潰してやろうか。
そうすれば誰も差別はしないか。
お前らの言葉なんか響かないんだよ。
綺麗事ばっかり並べてんじゃねえよ。
どうしても俺を説得したいなら、
平穏な青春にタイムリープして、
青い自分のニキビ面に向かって、
劇物を何プッシュか吹きつけな。
そいつが学校に行かなくなったり、
自室に籠もってニートになったり、
手首を切ったり首吊って死んだり、
しないでお前が存在し続けるなら、
俺と話し合うライセンスをやるよ。
どうせお前は過去に追い縋って、
想像の世界へ逃げ込むんだろう。
いろんな物を破壊して、
全部誰かのせいにして、
躊躇い傷を腕に刻んで、
病を作って心療内科へ。
俺は違った。
同じ道を歩いた。
血塗れのまま学校に通ったんだ。
引き籠もりになんかならなかった。
死ぬことなんかも選ばなかった。
そりゃ馬鹿みたいに苦しかったさ。
不快感と絶望で一日が始まった。
炎症の盛りを冷えた肌で感じた。
常に枕には血の赤が染みていた。
顔を洗う水には涙が溶け込んだ。
掻き壊す恐怖で眠れなくなった。
頬が破れるから笑えなくなった。
真っ白い塗り薬で瘡蓋を削った。
風呂上がり数分で体液が滲んだ。
黄色い滲出液は凸凹に固まった。
視線の針は百本くらい刺さった。
二度見や三度見は特に痛かった。
隣に座っただけで舌打ちされた。
昼休みの匂いは冷や汗になった。
度が過ぎた無知には心が萎えた。
数学の先生の偏見に胃が荒れた。
国語の先生の思いやりに泣いた。
美術の先生の無垢に揶揄われた。
鏡と陰口が否応なく牙を剥いた。
微細な膿は見えないことにした。
深紅の傷も見えないことにした。
次第に自己欺瞞も限界を迎えた。
理性で堪えても本能が邪魔した。
本能に抗うべく手を縛って寝た。
終いには手首が茶色く壊死した。
寝起きの血の赤は色濃くなった。
合宿行事には参加できなかった。
修学旅行になんて行けなかった。
薄情者の仮面が勝手に作られた。
根も葉もない噂が遍く広がった。
面と向かっては話せなくなった。
地元の友達にも会えなくなった。
誰一人として信用しなくなった。
夢とか希望とか欠片もなかった。
正常とか普通を死ぬほど憎んだ。
死ぬほど羨んで死ぬほど妬んだ。
死ぬほど、死ぬほど、死ぬほど、
それでも。
それでも学校に通い続けた。
引き籠もったりはしなかった。
手首切ったりもしなかった。
犠牲にしたのは明るい自分と、
普通の思い出と少しの水分と、
アイデンティティの探求時間。
お前らにこれが真似できるか。
この困難を潜り抜けられるか。
どうせできないに決まってる。
どこかで落魄れるに違いない。
分かったら即刻ここから出て行け。
綺麗事ばっかで響かないんだ。
これ以上この俺を貶めるな。
闘う相手が多すぎるんだ。
俺の言い分なんて誰にも響かない。
そんなこと痛いほど分かってるさ。
なのに言葉が湧いて仕方ないんだ。
治療法なんか分からなくて結構だ。
今の俺にはこれしかできないんだ。
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