64. カクテライズ

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カクテライズ
(『アンカクテライズ』2/2  )


 り屋根の下でポップに励ます、
 たった一歳しかたがわない彼女の、
 真っ赤な衣装の小さな背中には、
 自分の背中とは縁のない何かが、
 背負しょい込まれていたに違いない。

 逆さまのギターよりはるかに重く、
 放り投げたピックより速く鋭く、
 幾千のサーチライトより光またたく、
 何ともつかない何かを背負って、
 何も持たぬ然として舞台を巡る。

 何かありげに紡いだバラードは、
 視界をぼかすには十二分な言葉で、
 十二分な旋律で十二分な表情で、
 二時間と二秒間を「=」で結び、
 予習と復習の果たし状を手中に。

 自殺者の決意も思春期の想念も、
 一瞬間の いっしゅんかん 惜別も夢想家の至純しじゅんも、
 猟奇的な愛情も青天井の寂寥せきりょうも、
 期待値の低迷や平均値の邪推を、
 やおら覆してカクテルを成した。


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