56. 多摩川にて

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多摩川にて


 川崎へと向かって丸子橋まるこばしを渡る途上、
 かもの群れが優雅に無相関を示した。

 1羽のからすが欄干に降り立って、
 運動場の水まりには東横の赤。

 どこかの親子が描いた放物線を、
 目で追う一瞬で誰かに追い越され、
 雲間の太陽には背後を取られた。


 再生され立てのお気に入りの歌が、
 やむまでの数分間だけ土手を歩こう。


 雑草のラインを辿たどるのもいい。
 斜めのコンクリートもいい。
 手堅くわだちに頼るのもいい。

 いくつかの道筋がよぎったものの、
 踏まれて強くなる草々くさぐさなのだと、
 決めつけて先達せんだつの誘いを退けた。

 それもつかの間でしまいには、
 川幅と器の類似点に気づき、
 磐石な轍に釣られてしまった。


 ポケットに入れた手を冷やす北風が、
 やむことを待たずして最後の1行。


 この先には冬枯れの桜が並んで、
 その先には小川のせせらぎがある。
 それらをお預けにしてきびすを返す。

 左手の親子が織り上げる軌跡に、
 もう2次関数の出る幕はない。

 自由奔放な鴨たちは相も変わらず、
 無相関のプロットを決め込んでいた。


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