95. 旧雨今雨

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旧雨今雨きゅううこんう


　割増わりましのコートを駆け回った。
　隣には奇天烈きてれつな雨粒が１つ。
　シャトルコックを弾はじいたところ、
　汗を吸い取って思い出になった。

　仄暗ほのぐらいホールで語り合った。
　隣には物好きな雨粒が１つ。
　フランスの夜空を仰いだところ、
　音響も相俟あいまって思い出になった。

　昔日せきじつの豪雨は歴戦の傷。
　降り止やんで残ったのは後者の雫しずく。

　ライブの感想を伝えなかった、
　チャットの履歴が瑞々みずみずしい。

　これが旧雨って奴らしい。


　志望校が同じで戦友になった、
　雨粒の１つはどこへ行った。
　中目黒の夜に似合わなかった、
　私の手水ちょうずに巻き込まれたか。

　常備薬が同じで悪友になった、
　雨粒の１つは東京に行った。
　小田原の夜に泣きたくなった、
　私の郷愁を溶かして笑った。

　近頃の豪雨は専もっぱら孤立。
　止まずとも残っている後者の雫。

　朝の気紛きまぐれで誕生日を祝った、
　チャットの履歴が瑞々しい。

　これが今雨って奴らしい。


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