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アトピック・ホープ
(『乱心と冷静』4/5 )
そんな顔をするなよ。
そんな目で見るなよ。
僕らは見世物なんかじゃない。
僕らも悪いと思ってるんだ。
赤みを帯びた皮膚だとか、
散り散り落ちる欠片とか、
黄色く固まる滲出液とか、
全部が君らを不快にさせる。
だけど僕らも辛いんだ。
真っ赤に染まった枕とか、
笑うとじんわり滲む頬。
何より無垢な二度見とか。
君らにとって当たり前の四季は、
僕らにとっては天変地異で、
君らにとって当たり前の距離は、
僕らにとっては鋭い刃物だ。
僕らも少しは気を遣ってるよ。
たとえば食事をするときは、
カウンター席を愛用するし、
たとえばエレベーターの中、
降りるまで顔を上げないし。
細やかな配慮で悪いけど、
とにかく視界に入らないことが、
君らのためにできること。
そう心得て影を消していったよ。
惨状を知らない後輩の恋慕は、
諦めてもらうしか道はなかった。
修学旅行やバドミントン部は、
諦めてしまうしか道はなかった。
平静な自分を取り繕って、
苦しくないさと強がって、
歌詞に隠れて詩に逃げて、
哲学し出せば鬱が謳って。
それでも自分を殺さなかった。
どちらかと言うと殺せなかった。
悔しくって仕方なかったから。
当たり前の君らが憎かったから。
未来はあると信じたかったし、
無駄にはならないと信じたかった。
部屋の隅っこで独りで啾いて、
フィクションに浸かる術も覚えた。
活路を見出そうと学業に励んだ。
外側だけが諸悪の根源だ。
そうに決まってる。
きっとそうだ。
そう信じたけど現実は違った。
数え切れないほど深傷を負って、
とうとう中身も侵された。
中身も痛々しく流血した挙げ句、
真面目な人で済まされた。
優しい人で済まされた。
何度も終わらせてしまおうと思った。
それでも。
それでも話をしてくれた人。
気づけば隣で笑っていた人。
上空何百メートルで、
人工的な星空の下で、
共感し合った花のような人。
ともに高みを目指した戦友。
挫けても再度立ち上がった戦友。
死ぬ気で楽しめと励まし合った戦友。
それから屈強な歌々を抱いて、
現実の雨の中を一緒に走って、
ずぶ濡れになってくれた詩人。
月並なことは言いたくない。
言いたくないけど言ってしまうよ。
いつも近くにいたあなた達だけは、
どうか幸せになってほしい。
僕のことなんか忘れてだなんて、
言えるほど強くはないんだけど。
そもそも詩人の彼に至っては、
僕のことを知りもしないけど。
それでも、どうか、
どうか逞しい大人になって、
いつかは立派な母親になって、
いつかは頼れる父親になって、
最期は多くの親族に囲まれて、
微笑みながら眠ってほしい。
いつか近くにいたあなた達だけは、
今も傍にいてくれるあなただけは、
平凡で一方的な願望だけど、
どうか幸せになってほしい。
僕にはそれができそうにないから。
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