134. 幽

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ゆう


 徘徊はいかい趣味のルームメイトは、
 愛想を尽かして出て行きました。


 その後に現れた幽って奴は、
 混血児ハーフだった彼女とは若干異なって、
 痩身で小目こめ、性格は控えめ。

 初対面では怠け者に思えたが、
 あくまでそれは有能さゆえ。

 すでに張り巡らせたネットの資本で、
 文字通りFIREファイアを達成したよう。


 部屋の隅にハンモックを備えつけて、
 全身をき出しにして大胆に眠る。

 そんな無防備が恋しい昨今、
 とりわけ飛蚊症ひぶんしょうは幽の残像。

 偽の睡眠を喫する国民的少年めく、
 油断に満ちた一眠りには気をつけて。


 ふらふらと危うい無重力の酔歩で、
 目立たない糸を辿たどって帰還したよう。

 もうスリッパには無頓着で、
 出会う前とたがわない行住坐臥ぎょうじゅうざが。

 すっかり動きが鈍った僕は、
 反射的に「おかえり」とつぶやいていて、
 風来の立命、焦げる熱視線。


 目に見えない割に丈夫なんだな、
 低徊趣味をつなぎ止める糸は。


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