===================
掻き寝入り
あの頃の僕はゾンビでした。
魂がどうとか中身がどうとか、
そういう二次的な隠喩ではなくて、
それ以下の醜悪な現実の話。
相対的剥奪に屈するほどの、
周囲への関心は欠如したものの、
どうやら僕は無料の見世物で、
随分と視野が広がったようです。
解ってほしいとは言わないが、
他人なら他人らしく無関心たれ。
一方、髪を切ってくれた人、
本当に申し訳なかったです。
親身に話を聞いてくれた人、
本当に申し訳なかったです。
言い訳がましさは承知ながら、
両頬の冷感が止まらないのは、
破顔のせいか藪医のせい。
掻いて荒れたなら自業自得か。
そんなこんなで夜が来ました。
そして私はミイラになった。
包帯だらけとか睡眠過多とか、
そういう一次的な隠喩ではなくて、
それ以下の薄味な現実の話。
遠隔的喪失で高まるほどの、
不死身の感などなかったものの、
どうやら私は木の下の林檎で、
随分と日陰に守られてきたよう。
庇ってほしいとは言わないが、
大樹なら大樹らしく無関心たれ。
一方、銭湯に誘ってきた人、
本当に本当にすまなかった。
新年の挨拶をしてくれた人、
本当に本当に感謝している。
言い訳がましさは承知ながら、
右眉の下が赤らんでいるのは、
前髪のせいか真冬のせい。
泣いて腫れたなら自業自得か。
そうこうしていたら夜が来た。
もう手が届かない贅沢な油断と、
学習性無力感、一握りの成功譚、
お化けのスナップに蠢く既視感。
要するに掻き暗す現実に飽きた。
だから気晴らしに雨々の幸先を、
空想しながら、目を擦りながら、
おまけの明日を待つことにした。
===================
コメント