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回帰
準新生活を謳っていた頃とは、
打って変わって錆びついた木の葉。
すっかり馴染んで埃を被る家具は、
今では全身を締め上げる呪縛だ。
網戸の向こうに感慨はなく、
睡魔の表情に温もりはなく、
夕映えに傾倒するタナトスが騒ぐ。
重たいアームチェアは電気椅子のよう。
リクライニングとキャスターがあれば、
無駄のない手続きで安置室へおさらば。
電灯から垂れる紐は絞首台のロープ。
数ヶ月の無為徒食が鉛の如く、
ずっしり伸しかかり索痕を色濃く。
否、居直って空想を絶つ。
開き直って24時を待つ。
眠れぬ夜とは疾うに昵懇の仲になり、
うっかり書き忘れた月末のダイアリー。
大衆の覚醒時は煩すぎて酔うから、
やむなく惰眠に縋り白昼にさようなら。
真夜中の生きやすさに勘づいたことが、
どれほどこの私を救ったことか。
守りたいものは数あれど、
もうどうにでもなってしまえと、
ひと思いに断ち切った腐りかけの糸、
同時に放り捨てたチープなプライド。
そして迎えた可惜夜の数々。
沙汰なしを極めた清廉な時間こそ、
音なしを極めた愚者の慰安旅行。
黄昏のプレイリストが匙を投げた病が、
黎明のプレイリストで和らげばいいが、
さして期待している訳でもなく、
独力で返り咲こうと強かにもがく。
そしてまた無意義な輾転反側。
昼間の自堕落のお口直しに、
刮げる錆が見ていて楽しい、
純度の高い鉄の葉が欲しい。
ゆえに遏雲の曲の詞華を耽読。
今に白黒の部屋はカラフル。
それでも容赦なく朝は来る。
また絶望に起こされるようだ。
否応なく陥る見苦しい怯懦。
心のどこかで覚悟する淘汰。
緑青を纏ったまま飯が食えるような、
渾身の起死回生には何が必要か。
今の私には幸か不幸か、
道を炙り出す茫々たる燈火。
灯し続けるべく言の葉を投下。
これだけあれば長らえるだろうか。
懸念しながらも詩生活を謳歌。
きっとこれくらいが最適の一生だ。
ならば締め括りはあの一行か。
「さて、新しい詩を探しに行こうか」
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