74. 回帰

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回帰


 準新生活をうたっていた頃とは、
 打って変わってびついたの葉。

 すっかり馴染んでほこりかぶる家具は、
 今では全身を締め上げる呪縛だ。

 網戸の向こうに感慨はなく、
 睡魔の表情にぬくもりはなく、
 夕映えに傾倒するタナトスが騒ぐ。

 重たいアームチェアは電気椅子のよう。

 リクライニングとキャスターがあれば、
 無駄のない手続きで安置室へおさらば。

 電灯から垂れるひもは絞首台のロープ。

 数ヶ月の無為徒食が鉛のごとく、
 ずっしりしかかり索痕さっこんを色濃く。


 いな、居直って空想を絶つ。

 開き直って24時を待つ。


 眠れぬ夜とはうに昵懇じっこんの仲になり、
 うっかり書き忘れた月末のダイアリー。

 大衆の覚醒時はうるさすぎて酔うから、
 やむなく惰眠にすがり白昼にさようなら。

 真夜中の生きやすさに勘づいたことが、
 どれほどこの私を救ったことか。

 守りたいものは数あれど、
 もうどうにでもなってしまえと、
 ひと思いに断ち切った腐りかけの糸、
 同時に放り捨てたチープなプライド。

 そして迎えた可惜夜あたらよの数々。

 沙汰なしを極めた清廉な時間こそ、
 音なしを極めた愚者の慰安旅行。

 黄昏こうこんのプレイリストがさじを投げた病が、
 黎明れいめいのプレイリストで和らげばいいが、
 さして期待している訳でもなく、
 独力で返り咲こうとしたたかにもがく。

 そしてまた無意義な輾転反側てんてんはんそく。

 昼間の自堕落のお口直しに、
 こそげるさびが見ていて楽しい、
 純度の高い鉄の葉が欲しい。

 ゆえに遏雲あつうんの曲の詞華しか耽読たんどく。

 今に白黒の部屋はカラフル。

 それでも容赦なく朝は来る。


 また絶望に起こされるようだ。

 否応いやおうなく陥る見苦しい怯懦きょうだ。

 心のどこかで覚悟する淘汰とうた。

 緑青ろくしょうまとったまま飯がえるような、
 渾身こんしんの起死回生には何が必要か。

 今の私には幸か不幸か、
 道をあぶり出す茫々ぼうぼうたる燈火とうか。

 ともし続けるべく言の葉を投下。

 これだけあれば長らえるだろうか。

 懸念しながらも詩生活を謳歌おうか。

 きっとこれくらいが最適の一生だ。

 ならば締めくくりはあの一行か。


「さて、新しいうたを探しに行こうか」


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