===================
自供
電車で席を譲る人を見て、
良いもの見たなと思います。
僕はといえば停まった駅で、
降りる振りをして席を立ち、
少し遠くに移動する。
そんな程度の優しさです。
お世話になった先輩方に、
感謝の言葉と思い出を。
たった一枚の色紙のために、
何軒お店を巡ったことか。
横断歩道に小さなシューズ。
その先に見えるちびっ子の列。
迷わず拾って届けました。
だけど生きれば生きるほど、
狡猾な奴の幸福や、
道具としての優しさに、
あまりに多く出会ってしまい。
淀んだ社会で生きるには、
荒んだ人間にならなければ。
だから私は優しい自分を、
優しいうちに殺しました。
学生なのに学業に励み、
時間通りに大学へ向かう。
学生なのに羽目を外さず、
襟付きのシャツと黒い髪。
学生だからと図書館に通い、
誰にも負けない武器を磨いた。
家庭教師のアルバイト。
懇切丁寧な指導報告書。
学校に行けない彼のため、
何ができるかと懊悩の海。
航海へ向けた進路選択。
早期完了の一路を断ち、
泥臭い悪路を選んで邁進。
だけど生きれば生きるほど、
自分で自分の首を絞めて、
いつだって過るイメージは、
報われることのない未来。
淀んだ社会で生きるには、
荒んだ人間にならなければ。
だから私は真面目な自分も、
真面目なうちに殺したのだ。
===================
コメント