86. 四月上旬、望み、消散

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四月上旬、望み、消散


 薄暮はくぼの海岸を見渡していた。

 小さな子供と手をつないで、
 波に逆らって歩く人がいて、
 他にも同様の人が何人かいて、
 何事か察したが黙ってていた。

 ライフセーバーは諦めていた。

「多いんですか」と曖昧に問い、
「この辺はまあね」と冷静な返し。

「今日は特にですか」と続けて問い、
「そうでもないさ」と冷静な返し。

 一人また一人と点が無になった。

 ただ一人だけは全体像を残し、
 向こうの島に辿たどり着く見込み。

 太陽が沈んで傍観をやめた。


 通りかかった郵便屋さんに、
 家まで送るよう頼んだが、
 けんもほろろに断られ。

 慌てて動き回る警察官にも、
 家まで送るよう頼んだが、
 けんもほろろに断られ。


 近くにいた落語家の老人が、
 妻に感染うつされたとわめき出した。

 口汚く伴侶の不貞をののしった、
 その足で私をけなす予感がした。


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