162. 跡白波

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跡白波あとしらなみ


 去年一年分の大航海を、
 この一ヶ月で成し遂げた。

 月は長くて日は短いと、
 失う前から感知していた。


 最初は波に酔ったものの、

 意外と風が心地よくて、
 不意の飛沫しぶきも刺激的で、
 何なら雨さえ楽しくて、

 最後はしたたか残った空っぽ。


 終始「それじゃあ」の一言に、
 勇気を出してはメランコリー。

 右肩に掛かった翡翠ひすい髪状かざしは、
 好奇心の感嘆と同等の長さだ。


 跡形もなくなればよかったのに。

 見向きもされない泡沫ほうまつみたいに。

 跡形もなくなればよかったのに。

 一日で消去される動画みたいに。


「もう無理かもね」

 かけ離れた虹霓こうげい。

「どうせ報われねえ」

 つながらない点と点。


 両月丘げっきゅうで押さえつけた両眼りょうがん。
(止まれ止まれ止まれ止まれ)

 火星平原はキャパオーバー。
(((( (  ) ))))


 風光明媚ふうこうめいびな両手首の大河に、
 今に干上がるだろう跡白波。


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